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「私、蒼君さえ居てくれたらいいよ」
私の世界の全ては、今も昔もこの人だけで。
昔と同じで、蒼君さえ居れば、もう他に何もいらないと思う。
けど、胸に引っ掛かるのは、一枝さんの存在。
そして、一枝さんが言ってくれた、
私を今の現実から救うと言ってくれた言葉。
「蒼君、好きだよ」
だけど、私はこの人を選んだ。
「俺も、未希が好きだよ」
そう言って、蒼君は私を抱き締めて来る。
「蒼君、温かいな」
この温もりも、再び私のものになった。
「一枝さんじゃなく、俺を選んでくれてありがとう」
一枝さんの名前が出て来て、少しドキっとした。
今、考えていた事を知られているのか、と。
「だって、私は蒼君が好きだもん」
結局は、それが全てなのだろう。
「でも、俺、未希に酷い事ばかり言って。
本当に、悪かったと思ってる」
蒼君には、沢山私は傷付けられた。
その時、蒼君は嘘を付く時の癖で、時々、視線が自身の爪先に向いていた。
でも、そうではなく、真っ直ぐと私の目を見て来ている時もあって、
それが本心なのだと思う事もあった。
この人は、昔のままの蒼君であり、
やはり、変わってしまった所も多い。
蒼君は、私に顔を近付けると、唇を重ねて来た。
そのキスに、胸が鼓動を早め、熱くなる。
やはり、私はこの人が好きでたまらないのだと、このキスで確信してしまう。
そして、蒼君の変わってしまった部分も、愛し始めている。