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「施設のみんな、今も元気にしてんの?」
そう訊かれた言葉に、私は、知らない、と口にした。
「私、蒼君以外、それ程親しくなかったから。
それは蒼君があの施設を出てからもそうだよ。
誰の連絡先とかも知らない」
正直、あの児童養護施設の子達が今元気にしてようが、どうでもいい。
まあ、先生達はこんな私に、同情からだけど優しくしてくれていたので、
ありがたい、とは思っているけど。
「そうだったな。
未希は、俺だけだったもんな」
本人にもそう思われているくらい、
私の世界にはこの人しか居ない。
それにしても、此処に来てから、
蒼君との会話は、ずっと昔の思い出話ばかりで。
会わなかった間の話は、しなくてもいいとは思うけど。
これからの話が、全くなくて。
私と蒼君のこれからがどうなるのかと、不安になる。
その後、順番にシャワーを浴びて、
二人で寝室へと行く。
蒼君の部屋のベッドは、セミダブルで。
一枝さんの部屋にあったベッド程は、大きくはなかった。
ベッドの上に二人で膝を崩して座り、向かい合う。
「なんだか、改めてって緊張するよな」
そう、蒼君は照れ臭そうに笑う。
そんな姿も、私の知っている蒼君だ、と懐かしくなる。
蒼君と私は、何度も体の関係が有ったけど、
いつも蒼君は、する前は照れ臭そうにしていた。
「蒼君」
私はそんな蒼君に、正面から抱き着き、
自らキスをした。
それは、軽く唇を重ねるだけ。
私が唇を離し、蒼君の顔を見ると、
蒼君は私を真っ直ぐと見詰めていて、
胸がドキドキとした。
今度は蒼君が、私の頭の後ろに手を回して来て、
そのままキスをされた。
すぐに、蒼君の舌が私の口内に入って来て、私の舌に絡む。
本当に涙が出そうな程、蒼君と再びこうやって触れ合い、キスをしていて、幸せだと感じた。
前回、此処に来た時は、蒼君に性の捌け口のように扱われ、傷付いた。
同じ人と、同じ事をしているのに、
前回とは全く違う、と思った。