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「けど、あの頃の未希はまだ子供だったし。
今は3歳差なんて、変わらないけど。
あの頃の俺から見て、3歳年下の未希は、やっぱり子供で。
指輪とか、一切思い浮かばなかった」


そう言われ、それにムッとするけど。


「そんな子供に、する事してたくせに」


そう言い返した。



「だよな。
あの頃の未希、まだ体つきも幼かったよな。
俺らが付き合い始めた頃、流石に中1は辞めとけ、って、賢斗に言われた事あったんだよ。
でも、俺、未希が好きだったから…」


その、蒼君が口にした賢斗という人物は、
私達と同じ児童養護施設に居た男の子で、蒼君と同じ年な事もあり、
二人はわりと仲良くしていた。


私は、その賢斗君とは、必要以上話した事はないけど。


にしても、殺人者の娘なんか辞めておけ、って事じゃなく、そうやって違う理由で反対された事に新鮮で。


嫌な気持ちには、ならない。


「私が高校生になって、すぐの誕生日に蒼君がくれた腕時計は、今も大切に持ってるよ。
壊れちゃったけど」


その腕時計のプレゼントは、その時、もう蒼君は都会に出ていたので、私の元に送られて来た。



「壊れたんだ?
俺、初めての給料で、けっこう奮発してその時計買ったんだけどな」


「そうなんだ。
急に、時計の針が動かなくなって」


それは、高校を卒業して、こっちに出て来てすぐの頃。


その壊れた腕時計を見て、もう、蒼君の事は忘れろ、と言われているように思ったんだった。



「電池替えても、ダメだった?」


「え?」


電池?


「本当、未希は相変わらずだよな」


蒼君は、呆れたようにそう笑うけど、
そうやって昔と変わっていない私の姿に、喜んでいるようにも見えた。


「そっか。電池替えるのか」


また、あの腕時計は動き出すのだろうか?


私と蒼君の時間が、また動き出したように。


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