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その後、蒼君とは沢山昔の話をした。


今日、何度も話している事も有れば、
こうやって話しているうちに、思い出したエピソードもある。


そして、喋り疲れた私達は、抱き合い眠る。



明日は仕事だという蒼君は、わりとすぐに眠りに就いていた。


私はというと、気持ちが高揚して、
なかなか寝付けなくて、ずっと蒼君の寝顔を眺めていた。


スヤスヤと気持ち良さそうに眠っていた蒼君だけど、次第に呼吸が荒くなり、うなされ始めた。


「…ごめん…朱…」


そう、何度も朱に対して謝っていて。


その顔が、とても苦しそうで。


「蒼君!」


私は体を起こして、そんな蒼君を起こすように、体を揺する。



蒼君は驚いたように、両目を開いた。


「…未希?
夢か…」


蒼君も、ゆっくりと体を起こした。



「凄く、うなされてたよ?
朱ごめん、って何度も」


ただ、一度だけ、"朱、辞めて"と言っていた。



「…朱の夢見てた。
俺が、朱を殺した時の」


「蒼君…」


「…殺したくなかった。朱の事。
でないと、俺が殺されてた」


その言葉に、え、と蒼君を見ると、その目に涙が浮かんでいる。

まだ、その夢を引きずっているのか。



「もう、会いたくない、って朱に言われて、その時の朱の俺を見る目は、俺の事を蔑んでいた」


それは、前に蒼君に聞いていた。


"ーー朱の車で山道をドライブしていた。
そして、車を停めて切り出された。
もう、会いたくない、ってーー"


"ーーそう言われて、ふと見た朱の顔が、俺を蔑んでいたーー"


それで、蒼君は朱を殺したと前は話していたけど。

違うのだろうか?


「だからかな?俺、素直に頷けなくて。
嫌だって言った。
そしたら、朱の手が俺の手に伸びて来て…。
朱は、俺を殺そうとした。
俺、その辺りから、もう本当にあまり覚えてなくて。
気付いたら、俺が逆に朱の首をこの手で絞めていて…。
もう、朱は動かなくて」


今、蒼君の口から語られた、その時の詳細。


本当は、先に朱から蒼君を殺そうとした。




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