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「俺達の父親は、家の階段から足を滑らせて落ちて、不慮の事故で亡くなった事になってるけど。
本当は、少し違うんだ。
あの日、父親は朱を殴っていて。
そして、本気か脅しか分からないけど、朱を二階の階段から突き落とそうとした。
その時、暴れた朱に、父親は逆に階段から突き飛ばされて…それで、父親は亡くなった」


「じゃあ、蒼君達のお父さんは、本当は朱に殺されたんだ」


「あれは、事故だったんだよ!
いや、正当防衛だろ?
だけど、幼い俺達は本当の事を言えなかった。
父親が勝手に落ちた、って。
朱と俺は、警察や呼んだ救急車の大人達に、そう話した。
俺達は、何も知らない。父親が勝手に、って。
そうしたら、父親の死は事故として片付けられた。
本当の事は、俺と朱しか知らない。
朱にとったら、本当の事を知る俺は、脅威なんだろうな」


「だからって、その事を知ってる蒼君を口封じで殺そうとするなんて、朱は酷いよ」


それで、生き別れの双子の弟を殺そうとするなんて。

本物の朱は、酷い人だ。


「朱は、酷いよ。
その時、俺もそう思った。
俺と朱は、本当に仲の良い兄弟だったし。
俺は、離れてからも朱が大好きで。
朱もそう思ってると思っていた。
でも、逆の立場になってみて分かった。
俺も、知られたくない過去を知る未希が目の前に現れた時、怖かった」


いつか、あのお店で私が目の前に現れた時の、蒼君の動揺。

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