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「だから俺、未希の事殺そうとした。
出来なかったけど、本気で殺そうと思った」
蒼君には、二度首を絞められた。
一度目は、待ち伏せて車の中で話した時。
二度目は、初めてこのマンションの部屋に来た時。
「未希と再会して、好きな未希に会えて嬉しいとかじゃなく、
俺が思ったのは、恐怖だった。
今の俺の全てをお前に奪われそうで、怖かった」
そう、苦しみを吐き出すように、言葉にされる。
「だけど、蒼君は優しいから。
だから、私を殺せなかった」
「俺は、優しくなんかない。
ずっと、未希にそうなんだよ」
「え?」
「俺、朱がそうやって父親を殺してるから…。
俺も人殺しの家族だから。
だから、未希に普通に接する事が出来たのだと思う。
いや、もし、朱が殺人で捕まって、俺がその家族だとしても、
未希なら、この子なら、俺から離れて行かないだろうって。
だから、未希を好きになった…。
同じ、人殺しの家族だから…。
だから、俺はずっと未希に優しくなんかなかった」
「そう…」
私は、苦しそうな蒼君をゆっくりと抱き締めた。
「え、未希?」
本音を語った蒼君は、そうやって私がする事を不思議そうで。
きっと、私が離れて行く事も覚悟して、本当の事を言ってくれたのだろうから。
蒼君は、私に優しいわけじゃなかった。
昔から、ずっと。
「もう、そんな事どうでもいいよ。
蒼君が今、私の側に居てくれてるから」
蒼君が私に他の人達とは違い、普通に接してくれていた理由はそうなのかもしれないけど。
昔、私の事を好きだと言ってくれて。
今も、こうやって私を側に置いてくれている。
だから、もういいよ、と思えた。