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「蒼君、その婚約者の事も好きなんじゃないの?」


親が決めた結婚相手なのだとしても、
そうやって交際していて。


それなりに、相手の女性に気持ちはないのだろうか?


「べつに、あんな女、全然好きじゃない」


そう言う蒼君の目線の先は、嘘を付く時の癖の爪先じゃなく、
私の目を見ているのだけど。


「…好きじゃないけど、別れるとなると、
上杉の養父達に何を言われるか分からない。
だから、本当は別れなくていいならこのまま」


そう、言葉を続けた。


分かった、と私が言葉にすると同時に、私の手の中のスマホが震え出した。


電話の相手は、蒼君の婚約者と思われる、立花恵梨香(たちばなえりか)さん。


さっき、相手が電話に出る前に切ったけど、
その着信を見て、折り返して電話を掛けて来たのだろう。


蒼君は私の手からそのスマホを取ると、電話に出た。


「はい。
…え、あ、うん。
夜中に目が覚めて、ちょっと恵梨香とでも話そうかな?って」


蒼君は私から視線を逸らし、
背を向けて話し出した。



「うん。そうだよな」


どんな話をしているのかは分からないけど、
蒼君とその婚約者の親密さを感じた。


私は、蒼君の背に抱き着くように、頬を寄せた。


蒼君は、この先上杉朱として、この婚約者の恵梨香さんと結婚をする。


私はそれを、今のように邪魔をせず見て行く。


嫉妬をしないわけじゃないけど。


蒼君がそれで幸せならいいと、思えた。

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