trade
そして、待ちに待った週末。
平日、仕事で忙しい蒼君と、やっとゆっくりと過ごせる。
土曜日。
今日、蒼君は仕事だったけど、夕方には帰って来て、
夜は外でご飯でも食べに行こうかと言ってくれた。
ここに来てからの食事は、毎夜蒼君が買って来てくれたコンビニのお弁当で、
蒼君の居ない昼間も、私はお菓子やインスタント食品で済ませている。
その外食の提案は、そんな私に蒼君は気を使ってくれたのだろう。
身支度が終わると、蒼君と私は外食の為に出掛ける。
この辺りは駅が近く、わりと栄えているので、
歩いて行けるお店にしようと、二人で話して決まった。
蒼君と私が手を繋ぎ、マンションのエントランスを抜け、マンションから出ると。
スーツを着た中年の男性二人が、そんな私達の方へと近付いて来る。
「上杉朱さんですよね?
ちょうど今、お宅に伺おうと思っていました」
一人の男性の方が、そう口にした。
その人達の姿を見た時から、胸がザワザワとした。
それは蒼君もなのか、繋いでいる蒼君の手に力が入り、少し震えている。
「…あの、俺にどういったご用件でしょうか?」
その、蒼君の声も震えている。
「名乗るのが遅くなりましたが、
わたくしどもは、K県警です」
そう言って、その話しかけて来た男性の方が警察手帳を私達に見せるように掲げた。
彼らは、K県警の人達。
そのK県は、隣の県だけど…。
「少し前にですね。K県のK市にある、F山の山中のゴルフ場建設中の工事現場からですね。
白骨化した、男性の遺体が発見されました」
白骨化した遺体…。
その白骨化遺体は、本物の上杉朱?
ここに警察が来るという事は、その遺体がそうなのだと、特定されているのだろうか?
いや、もしかしたら、その遺体が現在行方不明の武田蒼って事になっているのではないだろうか?
だって、蒼君がここに上杉朱としているのだから。
それに、元々武田蒼として着ていた衣服も、朱の遺体と一緒に埋めたと蒼君は言っていた。