シンガポール・スリング
今まであっさりとした付き合いしかしたことがないレンは、相手が酔うとどうなるかなど考えたこともなかった。というより今まで付き合った女性はみんな、ある程度お酒が飲めていた気がするが、未希子に関してはお酒を飲むかどうかすら知らない。
シンガポールではレンの誘いを確か断っていた。あれは飲めないからなのか。
「未希子に関してあれこれ聞いてくるな」
「なんで?っていうかマダム・リンってマジすごいよね。未希子ちゃんをレンにって考えるところがさ」
「?まぁ中国でもお見合い公園とかあったしな。一言で言えば暇なんだよ」
「そうじゃなくて、“未希子ちゃん”っていうのがすごいってこと」
「・・・・」
「だって、レンぐらいの家だったら、レンと同じかそれ以上の家系とか考えるのが普通でしょ。マダム・リンのことだから東京中を歩き回ったと思うんだよね。で、選ばれたのが未希子ちゃんでしょ?そう考えると、未希子ちゃんってめちゃくちゃすごいよね」
上村は自分の言葉に一人で感心しながら、俺もマダム・リンにお願いしよっかなとぼやいていた。
レン自身、マダム・リンことナイナイに感謝せずにはいられなかった。普通の生活の中でレンと未希子が出会う確率は限りなくゼロに近い。そして、出会ったとしてもカフェのバリスタ止まりだったはずだ。
でも、二人は出会った。
運命としか言いようがない。
そんなことを考えながら、レンはピノ・ノワールのルビー色を眺めていた。