シンガポール・スリング
・・・・・・・
気づけば二人でワインのボトルを空にしていた。
そして、未希子がとんでもないことになっていた。
確かに上村が言っていた通り赤くはなったが、顔だけでなく体全体がピンク色に染まっている。そして何より未希子の変貌にレンは眩暈がした。
「お仕事、まだ残ってるんですか?」
「いや、今日はもうない」
「じゃあ、時間はたっぷりありますね」
「・・・・・」
未希子はすっと立ち上がると、寝室へと消えていった。
・・・・なんなんだ。
いつもは必死に抵抗をする未希子だったが、ワインを飲んだ後の色気は半端なかった。レンは催眠術にでもかかったかのように資料をコーヒーテーブルに置いたまま、未希子の後について行った。
寝室は限りなく暗く、ベッドサイドの電気だけがつけられていて、未希子はその前に立ちつくしている。
「どうした?」
「ネックレスが取れないんです」
そう言うと、片手で髪の毛をかき上げチラッと後ろを向いて、レンさん取ってくれますと囁いた。
なんなんだこれは?わかっててやってるんじゃないだろうな!?
レンは自分を落ち着かせるように呼吸を整えてから、別に気にしていないというように近づいて行ってネックレスのホックを取ってあげた。
「他にしてほしいことは?」
「え?」
「何か手伝えることは他にある?」
吐息が届く距離まで顔を近づけ未希子の頬をそっと撫でると、レンはゆっくりと唇を重ねた。
ワインの味がする。
レンは舌で舐めとるように未希子の口内を動き回ると、突然、もう待てないとでもいうように未希子がレンのシャツをズボンから引き出し、手のひらをレンの体に滑りこませた。
レンは思わず未希子の手首を握って、キスを中断させた。
ちょっと・・・待て。
見たこともない大胆さで迫って来る未希子に対して、レンは戸惑わずにはいられなかった。
レンの手から逃れた両手首が今度はレンの首へと巻き付く。
甘えるように少し唇を尖らせ、続きを待っているようだ。
未希子・・・・だよな・・・・。
2か月前から何度も抱いているが、こんな未希子は初めてだった。
愛し合う時はレンがいつも主導権を握っている。というより経験値ゼロの未希子が主導権を握ることなどありえなかった。それが今は綱引きのように主導権争いをしている。
レンは未希子をベッドに押し倒すとシャツを脱ぎ捨て、未希子が着ていた部屋着を引き上げた。
黒だ・・・・
なんで今日に限って、こんな下着をつけているんだ?
いつもより心臓が高鳴っているのがわかるほどレンは興奮していた。両腕を未希子の顔の横に突っ立て息を荒げながら、何とか自分を落ち着かせようとした。
ワインを飲みすぎたのかもしれない・・・
一瞬そんな考えもよぎったが、お酒に酔ったことがないレンにとっては言い訳にすらならなかった。指の背を使ってゆっくりと頬から下へと滑らせていくと、未希子は気持ちよさそうに口角を上げる。
しっとりとしていながらも滑りが良い未希子の肌。
長い睫毛の向こうで揺れている瞳を凝視しながら、わざとゆっくり胸周りのレースを指でなぞった後、脇を通って下へ下へと滑らせていった。
彼女の呼吸が少しずつ乱れていくのを感じ、それに呼応するようにレンの呼吸も早まっていく。
急いで残りの服を脱ぎ捨て、未希子に覆い被さると十分すぎるほど準備の整った未希子に入っていった。
頭を後ろに反らせながら甘く啼く未希子は妖艶で、レンを夢中にさせていった。
スピードを速め、逃げる未希子を抑え込む。
狂ったように自分をぶつけ、信じられないような快感に引っ張り上げられそうになった時、未希子の内側が痙攣した。
・・ぁあ・・・レンっ!
未希子の切羽詰まった声と同時に、突然の絶頂を迎えた。
呼吸が乱れ、言葉が出ない。
レンは肩を上下させながら自身をコントロールさせようと息づいてはみたが、内側の収縮が快感から解放させてくれない。レンは呆然と未希子を見つめることしかできなかった。
それに―――。
どんな時でも“レンさん”とさん付けで呼ぶのに、今初めて名前で呼ばれた。
そんな些細なことで翻弄させられる。
ダメだ。絶対にだめだ。
片腕を頭上にあげ、満足そうな彼女の顔を見て、レンは心に固く誓った。
自分の目の届かない所での飲酒は絶対にダメだ。
でも、時々なら・・・。
時々なら家で飲むのはいいかもしれない。
自分の出した結論に満足すると、レンは未希子を抱き寄せた。