シンガポール・スリング
・・・・・
シンガポールに来るときはいつもミレニア・スイートに滞在する。なぜならリビングとは別に書斎があるので、数週間滞在する場合はどこよりも快適に過ごすことができるからだ。部屋に案内するというと未希子は戸惑った表情を浮かべていたが、リビングルームに通すと、外の景色を見た瞬間あの小鹿のような大きな目をさらに大きくさせ窓辺に近づき、ウォーターフロントを見下ろしていた。
「君の部屋からは見えない?」
「ビルがたくさん見えます。とても素敵な部屋ですよ」
「せっかくシンガポールに来たんだ。もっといい部屋に変更したかったら言ってくれ。変更は可能なはずだから」
レンは祖母がマリーナビューを選ばなかったことを訝しく思った。
「とんでもない!とても満足していますし、どうせ明日帰るので」
それに、本当は見られなかったこの景色を今日見られたので、お得な感じです。未希子は肩を竦めて笑った。
レンは不思議なものを見るように未希子に視線を注いでいた。
「明日?そんなに早く?」
「?」
「初めてのシンガポールだからもっとゆっくりしていくかと思っていたが」
いえいえ、4日も仕事を休んで来ていますし、働かないと・・・。それにシンガポールは今日のランチがメインだったので。
「それは・・・君が言っていた“仕事”っていうのがこのランチだったってこと?」
レンは確認するように未希子に聞くと、墓穴を掘ったことに気づいたのか、頬をうっすら赤らめ恥ずかしそうに頷いた。
「・・・・・」
馬鹿正直だ。
隠し事なんてできないのだろう。そう考えると自然と次の言葉がレンから出てきた。
「じゃあ、昨日のびしょ濡れ事故もわざとではなかったってこと?」
「?」
未希子はぽかんとした顔でしばらくレンを見ていたが、彼の言っている意味が分かったのか突然目を細め、レンを訝し気に睨んだ。
「Mrリンは私が“わざと”あの場所でずぶ濡れの状態で立っていたと思っていらっしゃったんですか?」
「そういう可能性もあると言っているだけだ」
「そんなバカげた話、聞いたこともありません!」
「そういう女性を何人も見てきたものでね。今回はまずナイナイに取り入って、周りから攻めてきているのかもしれないと。案外切れ者だと感心していたんだ」
「・・・最低ですね」
「でも、今日話してキミを観察していたら、その可能性は無いに等しいと思えたよ」
「・・・・・」
「君は嘘なんか付けないようだから」
「必要であれば、嘘ぐらいつきます。優美さんからランチだけと言われていたのに、どうしようかとちょうど思っていたところです。どうやら確認事項も終わったようですし、私はこれで失礼するので、どうぞお仕事にお戻りください」
「おいっ!話はまだ終わっていないし、仕組まれていないと分かったと言っているんだ!」
私の方では話は終わりました。未希子は積乱雲のように膨れ上がる怒りを何とか体に閉じ込めようとしているかのように、呼吸を震わせていた。
「確かに私も再会してびっくりしましたし、偶然にしてはよくできていると思われても仕方ありません。でも優美さんに一度だけだからと頭を下げられたので、シンガポールまで来たんです。」
ランチ、ありがとうございました。どうぞ無駄な時間を私に使うことはよしてください。さようなら。
おいっ!ちょ・・ちょっ・・・
未希子はレンの話など全く聞く耳持たないといった態度で一礼すると、スイートルームから出て行った。
シンガポールに来るときはいつもミレニア・スイートに滞在する。なぜならリビングとは別に書斎があるので、数週間滞在する場合はどこよりも快適に過ごすことができるからだ。部屋に案内するというと未希子は戸惑った表情を浮かべていたが、リビングルームに通すと、外の景色を見た瞬間あの小鹿のような大きな目をさらに大きくさせ窓辺に近づき、ウォーターフロントを見下ろしていた。
「君の部屋からは見えない?」
「ビルがたくさん見えます。とても素敵な部屋ですよ」
「せっかくシンガポールに来たんだ。もっといい部屋に変更したかったら言ってくれ。変更は可能なはずだから」
レンは祖母がマリーナビューを選ばなかったことを訝しく思った。
「とんでもない!とても満足していますし、どうせ明日帰るので」
それに、本当は見られなかったこの景色を今日見られたので、お得な感じです。未希子は肩を竦めて笑った。
レンは不思議なものを見るように未希子に視線を注いでいた。
「明日?そんなに早く?」
「?」
「初めてのシンガポールだからもっとゆっくりしていくかと思っていたが」
いえいえ、4日も仕事を休んで来ていますし、働かないと・・・。それにシンガポールは今日のランチがメインだったので。
「それは・・・君が言っていた“仕事”っていうのがこのランチだったってこと?」
レンは確認するように未希子に聞くと、墓穴を掘ったことに気づいたのか、頬をうっすら赤らめ恥ずかしそうに頷いた。
「・・・・・」
馬鹿正直だ。
隠し事なんてできないのだろう。そう考えると自然と次の言葉がレンから出てきた。
「じゃあ、昨日のびしょ濡れ事故もわざとではなかったってこと?」
「?」
未希子はぽかんとした顔でしばらくレンを見ていたが、彼の言っている意味が分かったのか突然目を細め、レンを訝し気に睨んだ。
「Mrリンは私が“わざと”あの場所でずぶ濡れの状態で立っていたと思っていらっしゃったんですか?」
「そういう可能性もあると言っているだけだ」
「そんなバカげた話、聞いたこともありません!」
「そういう女性を何人も見てきたものでね。今回はまずナイナイに取り入って、周りから攻めてきているのかもしれないと。案外切れ者だと感心していたんだ」
「・・・最低ですね」
「でも、今日話してキミを観察していたら、その可能性は無いに等しいと思えたよ」
「・・・・・」
「君は嘘なんか付けないようだから」
「必要であれば、嘘ぐらいつきます。優美さんからランチだけと言われていたのに、どうしようかとちょうど思っていたところです。どうやら確認事項も終わったようですし、私はこれで失礼するので、どうぞお仕事にお戻りください」
「おいっ!話はまだ終わっていないし、仕組まれていないと分かったと言っているんだ!」
私の方では話は終わりました。未希子は積乱雲のように膨れ上がる怒りを何とか体に閉じ込めようとしているかのように、呼吸を震わせていた。
「確かに私も再会してびっくりしましたし、偶然にしてはよくできていると思われても仕方ありません。でも優美さんに一度だけだからと頭を下げられたので、シンガポールまで来たんです。」
ランチ、ありがとうございました。どうぞ無駄な時間を私に使うことはよしてください。さようなら。
おいっ!ちょ・・ちょっ・・・
未希子はレンの話など全く聞く耳持たないといった態度で一礼すると、スイートルームから出て行った。