シンガポール・スリング


その瞬間、レンは完全に彼女に落ちた。

ビジネスでの駆け引きや探り合いは日常茶飯事。
勝つための戦略を考えることは呼吸するのと同じぐらい当たり前のレンだったがこの瞬間、勝ち負けなんてどうでもよく、ただ純粋に未希子が欲しいと思った。そして、どうすれば未希子を手に入れられるのか、その方法が全くわからなかった。

「・・・明日は見送りに行く」

「そんな。今日一日の分を取り返さないとダメなんですから」

レンは6時半にリムジンを下に用意させておくと一言言い、そのまま未希子を引っ張るようにエレベーターに乗り込み、後ろから抱きしめた。

「見送りたいんだ」

顔を未希子の肩に押し付け、くぐもった声でつぶやいた。未希子はそれに反論することはなかった。2人は何も言わずエレベーターから降り、未希子が部屋の中に入ったのを確認すると、おやすみとだけ告げレンは去って行った。






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