シンガポール・スリング
「ねぇ。どう思う?」
「人柄が良い感じに見えたな」
「本当にいい人なのよ」
「それにシュンリン好みの顔立ちだし・・・」
「すっごくハンサムだと思わない?」
「ご両親が納得したのも、理解できる」
「フフフ。でしょ?」
「シュンリンにはもったいないんじゃないか?」
「なっ・・・何よ!それ!失礼ね!!」
レンは大笑いしながらグラスを手に取り、婚約に乾杯とグラスを掲げた。
「さて、私の話はこれで終わり。もう潔く私に隠していることを話してくれてもいいんじゃない?」
シュンリンは身を乗り出して、何か隠してるってちゃんとわかっているんですからねとレンに詰め寄った。レンは両手を上げ降参のポーズを取ると、シュンリンのような楽しめる話は何もないと前置きをした上で、未希子との出会いを話し始めた。シュンリンは話している時のレンの顔を見て、ついにこの堅物男も恋に落ちたのねと、内心ワクワクしていた。
「写真とかないの?」
シュンリンの質問に、一瞬言葉を詰まらせた後、ないと返答した。
「嘘つきっ!絶対に隠し持ってるんだわ。顔にちゃんと書いてあるんだから」
「ないものはない」
「そんなはずないじゃない!」
「あったら見せてるさ。というより、なんで撮らなかったのか、連絡先を聞いておかなかったのか自分の馬鹿さ加減にうんざりしているところなんだ」
「連絡先って・・・じゃあもしかしたら、別れて以来一度も連絡とっていないの?」
レンは長いまつげを伏せ、かすかに頷いた。
「レンならどんな手を使っても、調べることなんてできるじゃないの。どうしてしないの?」
「彼女が嫌がる気がしたんだ。直接聞かなかったのに、裏でこっそり探って電話なんて突然したら不審に思うんじゃないかって。それに、本当は2週間前に日本に帰国していたはずだろ?それが今こんなことで足止めを食らっている」
「今のレンには恋愛初心者マークが必要ね。連絡先はマストでしょ?でも、彼女のことを一生懸命に考えているのはわかったわ。これが終わったら帰国するんでしょ?ってことはレンにとってはこれからが勝負ってことね」
「まぁな。会ってくれるかもわからないし」
「何そんな弱気になってるのよ。若き竜王と言われているレン・リンはどこに行ったのよ!状況報告ちゃんとしてちょうだいね。してくれないなら、日本に押しかけてやるんだから!」
その後レザミの夕食とシュンリンのために作られたデザートを堪能し、二人はレストランを出た。
シュンリンはレンの腕に手を置き、忙しいのに私のために時間を取ってくれてありがとうと心からの笑顔を向けた。レンは顔を近づけ、シュンリンがもう彼を手のひらで転がしているのが見れて良かったと言うと、シュンリンはなんですってぇ!と叫び、レンの腕をバンバンたたいた。
まさかこの時のレンはこの状況をパパラッチに撮られているとは知らず、その写真を未希子が見て、苦しんでいるとは露ほども考えなかった。