シンガポール・スリング
・・・・・・・

木曜の会議で、レンは完璧なプレゼンを行い、担当者を完全に黙らせた。そして、今後はビデオ会議を通して進めていくことと、技術面ではシュンリンの会社に委託するよう要請した。会議に出席していたシュンリンは何も聞いておらず、思いっきりレンを睨みつけていたが彼の知るところではなかった。会議が終わるとシュンリンは人をかき分けてレンの前に立ちはだかり、話がありますと隣の小会議室に引きずり込んだ。

「ちょっ、ちょっと!!突然こっちに振られてもこっちだって予定というものがあるのよ!!」

「シュンリンがいるから何とかなるだろ?」

「何とかなるですって!!!こっちはそっちの要求を捌くのにどれだけ大変な思いをしてると思ってるのよっっ」

よくやってるよ。
そういう所も君の婚約者は惚れ込んだんだろうなとレンは言うと、ピタッとシュンリンの動きは止まった。

「アランを持ち出すなんてずるいわ」

「でも本当のことだし、そのために俺に紹介したんだろう?」

それに・・・。
レンは何か携帯に打ち込むと送信ボタンをクリックし、次の予定があるんでねと颯爽とシュンリンの脇を歩いて行った。

「ま、まだ話は終わってないわっ!」

「話は済んだだろう?何かあるんだったらメールでもいいし、後で電話をくれたっていい」

「ちょっ、ちょっと待ちなさいったら!」

しかし、レンはもう会議室から姿を消していた。
父親との会議の後、レンは猛烈な勢いで仕事を進めていき、一寸の隙も与えないほどの完璧な状態で会議に臨んだ。その勢いはシンガポール政府を圧倒させ、シンガポールの今後のためにも必要な存在とうならせるほどだった。レンはただ単に一秒でも早く未希子の元に行き、ゴシップ記事の内容を否定したいだけだった。その思いが今まで以上にエネルギーを与え、周りはそんなレンについて行くのがやっとだった。

レンは足早にビルを出ると、待たせてあった車に乗り込みセレター空港へと走らせた。空港にはプライベートジェットが用意されていて、レンが乗り込み次第すぐ離陸できる体制が整えられていた。レンはどんなに遅くなっても日本に帰国次第、真っ先に未希子のカフェに行こうと考えていたが、時計を見ると2時少し前。日本到着は9時半ぐらいか。となると、今日は無理かもしれない。レンは明日の仕事でできることはないかざっと頭の中ではじき出しながら、助手席に座る秘書に声をかけた。

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