シンガポール・スリング
ウェイ・リンは携帯を取り出し記事を検索して優美に見せると、彼女は首を振って深く眉を寄せた。
「こんな写真を見たら勘違いするに決まってるわ」
「でしょうね。彼女の様子を見る限り、写真を見たんだと思います」
「レンは彼女と話し合ったのかしら」
「連絡がありましたが、何もそのことには触れていませんでしたね」
「それで・・・レンはなんて?」
ウェイ・リンは妻の顔をちらっと見てから、両肩を竦めて自分が言ったんじゃないですからねと断ってから、レンの言葉を口にした。
「プロジェクトが一段落したら、真剣に結婚を考えたいから、自分達に見合い相手を決めてほしいと」
「だめよ絶対。絶対にダメ!」
「お母様・・・・」
「レンは・・・あの子はあなた達のように愛する人を探しているの。そして、実際シンガポールでそれを見つけた」
「母さん・・・レンははっきり言ったんです。今まで会社を回すのに必死でお見合いの席にも興味はなかったけど、今は将来のためにも真剣に考えたいと」
「ただ単に未希子さんを忘れたいだけよ。他の女性に会えば忘れられると思ってるんだわ。そんなことは絶対にないのに」
「未希子さんという方、お母様の言う通り素敵な方なんだと思います。でもレンにとって彼女が唯一ではないかもしれないじゃありませんか」
優美はキッと息子の妻を睨みつけた。
「あなた達はシンガポールでのあの二人を見ていないから、そんなことを言っているんです。レンのあの表情や態度を見たらあなた達は自分の息子とは思えないはずよ。私にはちゃんとわかっています」
「母さん・・・」
「あの子の眼は、あなたがシャン・ウーを見る眼と同じだったのよ」
その言葉を聞いて二人は黙ってしまった。
英二と優美は息子とその彼女を見てすぐに結婚を許した。なぜならシャン・ウーの外見や彼女の持っていた仕事に関係なく、二人が本当に愛し合い、また彼女がどれだけ息子の支えになっているのか瞬時に察したからだった。
「私は未希子さんがどんな仕事をしていようと気にしないわ。レンが仕事から帰ってきた時に安らぐ場所があって、彼の支えとなれるのなら。レンが心から愛しているのなら、それでいいと思っているのよ。あなた達は違うの?」
優美は二人をじっくりと観察した後もう寝るわと言い、くるっと踵を返して彼らの前から去って行った。