シンガポール・スリング

「お待たせしました・・・・お、久しぶり」

上村はニヤッと口角を上げると手に持っていたペンを胸ポケットに刺した。上村とレンは高校からの腐れ縁で、時間があれば飲みに行くぐらいの仲ではあった。二人はまったく違ったタイプだったが、男女問わずについ二度見してしまうほど、容姿だけではなく何か他とは違ったオーラをまとっていた。
上村はもちろんレンから優美のことを何度も聞いていたし、会ったこともある。
その優美がパニックを起こしながら、救急病棟に運ばれてきた女性と一緒に駆け込んできたのである。
レンとどういう関係なのか聞きたくてウズウズしているのは明白だった。

「上村先生、先ほどは本当にありがとうございました」

「いえいえ。やるべきことをやっただけですから」

「孫のレンから上村先生が高校時からのお友達だって聞いたところなんです。ごめんなさいね。こんなハンサムさんを忘れてしまっていて」

上村はとっておきのスマイルで優美に微笑むと、高校の時はやんちゃだったんで忘れてくださってかまいません。それにレンさんのモテ方に比べたら自分なんて全然、と謙虚に返したことが優美をよほど喜ばせたのか目をキラキラさせ、上村先生ってご自分を魅せるのがお上手ねと微笑み返した。

「どうでもいいですが、彼女の様子はどうなんですか」

投げやりに質問してきたレンをチラッと見た後、1-2週間で退院できますから安心してくださいと伝えた。

「まぁそんなにかかるんですね。症状が良くないと言うことなんでしょうか」

「先ほど話した通り、検査結果は“ほとんど”問題はありませんが、安静でいる必要がありますので大事をとって1-2週間と考えています」

その言葉にレンはすっと目を細め上村を見つめた。上村はレンの視線に気づいていないかのようにふるまい、優美の肩を優しく撫でた。

「ナイナイ、医者もこう言っていますし、宮本をだいぶ待たせていますから家に帰って休んでください」

「レンは・・・ここに残るの?」

「ええ、ナイナイが個室を用意してくれたようなので、未希子が退院するまで仕事はできるだけ病室からしようと思います」

上村はレンの言葉にびっくりしたように、目を見開いた。
優美はその言葉に安心し、それじゃあ帰ろうかしらと言って、明日また顔を出すわねと告げた。
レンは優美をエレベーター前まで送り、宮本に状況を説明して明日の朝までに仕事に必要な書類とラップトップを届けるよう伝えた。

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