シンガポール・スリング
「おはよう・・・って朝っぱらから何してるんだよ!ここは病院だぞ!行動を慎め、行動をっ!」
若い方の男がレンをあきれた様子で見ながら腰に手をやったが、年配の方はニコニコしながら二人の顔を見て、久しぶり、元気にしていたようだねとレンに声を掛けた。
レンは体を起こすと、年配の方に軽く会釈をして、感謝の言葉を述べた。
「うちの大樹がレン君の大切な人が入院していると朝から騒ぐもんだから、一度あいさつに来ようと思ってね」
「お騒がせして申し訳ありませんでした」
「そんな大したことじゃない。大樹もお世話になっているし、お互い様だよ」
「医院長にお会いできてよかったです。実はお願いがあるのですが」
「?・・・何だね」
「上村は・・・大樹は大変優秀な救急医なので、“わざわざ”入院棟に来てもらうのは病院の足を引っ張るだけかと。自分のことを考えて未希子の担当をと申し出てくれたのですが、大樹には救急棟に集中していただきたいんです。」
「おいっ!未希子ちゃんが“無事に”退院できるまで俺が診察するっていっただろ」
「断る」
「だ~か~らっっ!おれはこの病院の医者なの。強いて言えばこの病院の跡取りなわけ。未希子ちゃんの担当は俺以外・・・」
「お前は患者を選ぶのか?」
父親である医院長の言葉に上村は一瞬うっと言葉に詰まった。
「・・・というわけで、バカ息子が気になってしょうがないようなので、担当医にはさせないが、彼女さんの様子を見に来ることは許してやってほしい」
「・・・・・・未希子に触れないなら」
「お前、医者にどんな妄想抱いてるんだよっ!俺たちは診察してるんだぞ、診察!!」
「お前の場合は邪気が含まれているから却下だ」
「な!?誰がお前なんか診てやるかっっ!!頼まれても絶対診ないからな!!」
「頼んだ覚えもない」
なにぉ!!!上村は掴みかかろうとしたが父親に抑えられ、レンを睨み返していたが、レンは知らん顔で上村を無視していた。