シンガポール・スリング
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何が起きてるんだろう。
未希子はまだぼんやりした頭を必死に動かしながら今の状況を把握しようとしていた。途中すっ飛ばして結末から読み始めた小説のように、全く今の状況が理解できなかった。
しばらくすると看護婦が点滴の準備をはじめ、未希子は天井を見上げながらここ数分の出来事を考えていたが、突然睡魔が襲い掛かり未希子はそのまま意識を飛ばした。
それから未希子は目を覚ますたびに誰かしら未希子の病室にいた。
それは未希子の知っている人だったり、知らない人だったりとそれぞれだったがレンは必ずその場にいた。未希子の父親も訪れてレンと話をしていた。レンの話によると未希子の母親も来ていたそうだが、その時未希子は目覚めなかった。
そして、もう一人。
懲りずにちょくちょく顔を出す面会人がいた。
「未希子ちゃん。今日ビジューでゼリー買ってきたよ~。少しは口から食べられるだろうから食べてごらん。この病院の近くにあって、すごく人気のケーキ屋さんなんだけど、ちょうど空いてたから買って来ちゃったよ」
上村は担当医から外されたものの、時間があれば未希子の様子を見に来たと言って、レンにちょっかいを出したり、病院の噂話をしに来ていた。
「ありがとうございます。すみません、いつも気を使わせてしまって」
「全然気使ってないし。未希子ちゃんが順調に回復して来てるって担当の大西先生からも聞いてるし。早く退院できるといいね」
そう言うとビデオ会議をしているレンに手を振る。レンはちらっと上村を見ると思いっきり睨みを利かせてきたので、上村は苦笑した。
「レンってあんなに焼きもち妬きだったなんて知らなかったよ」
「そ、そんなこと・・・」
ないとは言い切れず、未希子は言葉を濁した。
ここ最近のレンは未希子を完全に彼の庇護下に入れているような、ライオンのように未希子に近づく訪問者を威嚇する。特に上村に対しては警戒レベルを最高値に上げていて、ビデオ会議等でイヤホンを付けている時でも必ず片方を取って二人の会話を耳に入れるようにしていた。