シンガポール・スリング
「聖徳太子みたい」
未希子がボソッとつぶやくと、上村は大笑いして未希子ちゃんのためならレンは聖徳太子だろうとなんだろうとなれちゃうんだよ。
近くの椅子に腰かけながら、ゼリーの蓋を取って、未希子にスプーンを手渡した。
いただきますと言って、半分ほど掬って口に入れると、甘いブドウの味が口内で広がり、香りが鼻腔に到達するを感じた。
「わぁ・・・美味しい!」
未希子は小鹿のような眼で数回瞬きすると、上村に向かってにっこり微笑んだ。上村は一瞬固まり、さっとレンを見た後大きくため息をついて未希子ちゃん・・・と呟いた。
「そういうのは無意識にしてるんだよね・・・・。そりゃレンも苦労するわ」
「??」
「ゆっくりでいいから、食べてね。早く元気にならないと本当に困るから」
上村は肘をベッド脇のフレームに置き頬杖をつきながら、未希子が食べるのを見守った。しばらく上村はそのまま未希子に質問したり、レンのことを面白おかしく話していたが突然、未希子ちゃんってさぁ・・・と声を掛けたかと思うと、かわいいよねと言い出し、未希子はスプーンをくわえたまま顔を真っ赤にした。上村はケラケラ笑いながら、ゆっくりゼリー食べてねと言って立ち上がった。
激怒しているレンを見ながら上村はまた笑って、未希子ちゃんがかわいいのは俺のせいじゃないでしょ、と言って病室を後にした。
取り残された未希子は真っ赤になりながら、そっと最後の一口を口に入れた。
ビデオ会議に出席していた企画推進部のメンバーは画面の向こうでどんどん険しい顔になっていくレンに怯え、部長までもが震えながらレンに何か問題があるか確認した。