シンガポール・スリング
「それでどうしたの?」
「レンさんに電話を掛けたんです。そしたら、その女性に抱き着かれている男性が携帯を取り出して、男性がレンさんだとわかったんです」
「最悪の現場を見ちゃったわけだ」
「女性に抱きしめられながら普通に私と会話をしているレンさんを見ているうちに、今まで連絡してくれた時も、実は片手でメッセージを送りながら、もう片手で他の女性を・・・」
「それはないよ、絶対に」
上村は未希子の言葉を遮るように言い切った。
「今の未希子ちゃんに信じてもらうことは無理かもしれないけど、アイツはそういうヤツじゃない」
モテまくっているのは事実だけどね。上村は苦笑しながら話を続ける。
「未希子ちゃんも言ってたけど、女性のほうが抱き着いてて、レンが抱きしめてたわけじゃないよね?」
レンが腕を回していなかったと言われれば確かに回していなかった気もする。
それでも未希子には理解しがたい状況だった。
好きでもない人が抱き着いてきても気にならないのだろうか?
自分だったら嫌。
そこでハッとする。焼きもちを妬いているんだ。
でもそんなのおかしい。
だってレンさんとは付き合ってないんだもの。
レンさんが誰を抱きしめようとレンさんが誰に抱き着かれていようとレンさんの自由。だけど・・・
やっぱり嫌だ。
「すみません。大樹先生、こんなことに付き合わせてしまって。バカみたいですよね。付き合ってもいないし、ましてや好きだとも言われていないのに焼きもち妬くなんて」
「は?・・・ちょ、ちょっと待って。今なんて言った?!」
??
「こんなことに・・・」
「ううん、そこじゃなくて、その後」
「付き合ってない・・・ってことですか?それとも好きだって言われたこともないってことですか?」