シンガポール・スリング
「未希子ちゃんってめちゃくちゃ小さくって、抱きしめたらすごく柔らかいんだね」
上村はレンを煽るかのように言葉を続けながら、頭上にキスをした。
未希子は辞めてください!と言ってはみたものの、くぐもった声は上村の胸元で消えていった。
何が何だかわからず、未希子の眼から涙がこぼれ始めた。
なんで大樹先生は突然こんなことをするの?
どうしてレンさんは助けてくれないの?
「レンの大切な人だと思って距離を置こうと思ってたけど、そうじゃないなら俺、本気で未希子ちゃん奪いに行くよ」
「・・・・ふざけるな。未希子だけは絶対にやらない」
「やらないっていってもさ。付き合ってもいないし、好きとすら言ってないんだろ?何も始まってないじゃん。それに他のお相手がいるようだし」
「何をしたいのか知らないが、今すぐ未希子から離れろ」
「単純に未希子ちゃんを悲しませたくないだけ。未希子ちゃんの気持ちがわからないようなら俺がいっぱい甘やかせてあげようと思って。モテモテのレンさんは他のお相手でもしたら?未希子ちゃんじゃなくても、たくさんいるんでしょ。美女たちがさ」
「大樹、お前いい加減に・・・」
「お前こそいい加減にしろよ」
上村は今までのふざけた調子から急に声のトーンを落とした。
「未希子ちゃんがなんであの場を去ったかわかってんの?レンが他の女と抱き合ったり、笑いあったりしたのを一度のみならず二度も見て傷ついてるからだろっ!頭いいんだから、それぐらい気づけよっ!今俺が未希子ちゃんにしていることを見て怒り狂ってるけど、これと同じことを目撃して、もう何も信じられなくなっている未希子ちゃんの気持ちがわかんないのか。それも2度もだぞっ!」
え・・・もしかして、大樹先生は私のこと庇ってくれてる?
未希子はもがくのを辞めると、回していた腕が少し緩められたので、上村を見上げ、瞬きした。上村は未希子を見下ろすと、少しだけ口角をあげてからレンを見据えた。
「未希子ちゃんは幸せになる資格がある。本気ならもっと大切なことあるだろ?未希子ちゃんに言わなくちゃいけないことがさ」
上村の声が静かに響き渡った。