シンガポール・スリング
「何だったんだ。今のは」
確かに自分から声をかけた時点で、レンらしい行為ではなかった。
普段ならそのまま車に乗って過ぎ去っていたはずだ。いつも秒刻みで行動しているレンだったが、その時たまたま1,2分車を待つ時間ができた。ふと隣を見ると、小さな女が震えながら空を見上げていた。早く雨がやんでほしいという思いがひしひしと伝わってきて思わず声をかけてしまった。西洋人からしたらアジア人はみんな同じ顔に見えるようだが、彼女が日本人だとレンにはすぐに分かった。あの小鹿のような大きな目がそう思わせたのかもしれない。日本語で声をかけて振り返った彼女を見て、さっきまでの横顔より数倍魅力的だと考えを訂正した。
あれ?日本人じゃなかったのか?
何の返答もなかったので急いで英語で聞き返してみると、恥ずかしそうに日本語で返してきた。そして、彼女の顔から視線を下ろしたとたん、ぎょっとした。
なんだその恰好は―――。
真っ白なシャツにくっきりと浮かび上がる下着。
幼顔の彼女と下着の色のギャップになぜかレンは見てはいけないものを見ているような、誰にも見せたくないような感情が沸き起こり、急いで自分のジャケットを脱いで彼女に羽織らせた。あたふたしていた彼女にそのジャケットは大きすぎて、ジャケットの下には何も着ていないように見える。しっとりと湿った形のいい足だけが目につき思わず口を手で覆い、やばいなと呟いた。会って数分しか経っていない名前すら知らない女だったが、幼い顔とは逆に香り立つような色気を醸し出す女にレンは花の蜜に誘われた蝶のように思わず体を寄せた。
レンが彼女に触れそうになったその時、リムジンが到着した。
なんとか頭によぎったあれこれを振り切り、車の中に無理やり押し込み、彼女について質問していくうちに、違った疑惑が膨れ上がってきた。
リッツ・カールトンだと?!
確かにミレニア・シンガポールに滞在する日本人は多い。
リッツカールトンならではの完璧なサポートとサービスの提供に日本人の心をくすぐられるのもよくわかる。現にレンはシンガポールでの滞在では必ずリッツだし、数週間かかる今回もミレニアスイートに滞在していた。しかしこの隣にいる女は失礼かもしれないが、どう見てもリッツ・カールトンの客には見えなかった。もちろんリッツにもカジュアルな服装の客はたくさんいる。しかし、何かが違う。
ホテルに着くと、ドアマンがドアを開けたと同時にいつもの挨拶をし、下りてきたずぶ濡れの女に驚いてはいたものの宿泊客だと気づいたのか、丁寧に声をかけていた。
彼女はそれ以上小さくなれないだろうと思われるほど肩を竦めドアマンと話し、すぐに自分にも頭を下げ逃げるようにホテルの中へ消えて行った。自分のジャケットを着たまま・・・。
確かに自分から声をかけた時点で、レンらしい行為ではなかった。
普段ならそのまま車に乗って過ぎ去っていたはずだ。いつも秒刻みで行動しているレンだったが、その時たまたま1,2分車を待つ時間ができた。ふと隣を見ると、小さな女が震えながら空を見上げていた。早く雨がやんでほしいという思いがひしひしと伝わってきて思わず声をかけてしまった。西洋人からしたらアジア人はみんな同じ顔に見えるようだが、彼女が日本人だとレンにはすぐに分かった。あの小鹿のような大きな目がそう思わせたのかもしれない。日本語で声をかけて振り返った彼女を見て、さっきまでの横顔より数倍魅力的だと考えを訂正した。
あれ?日本人じゃなかったのか?
何の返答もなかったので急いで英語で聞き返してみると、恥ずかしそうに日本語で返してきた。そして、彼女の顔から視線を下ろしたとたん、ぎょっとした。
なんだその恰好は―――。
真っ白なシャツにくっきりと浮かび上がる下着。
幼顔の彼女と下着の色のギャップになぜかレンは見てはいけないものを見ているような、誰にも見せたくないような感情が沸き起こり、急いで自分のジャケットを脱いで彼女に羽織らせた。あたふたしていた彼女にそのジャケットは大きすぎて、ジャケットの下には何も着ていないように見える。しっとりと湿った形のいい足だけが目につき思わず口を手で覆い、やばいなと呟いた。会って数分しか経っていない名前すら知らない女だったが、幼い顔とは逆に香り立つような色気を醸し出す女にレンは花の蜜に誘われた蝶のように思わず体を寄せた。
レンが彼女に触れそうになったその時、リムジンが到着した。
なんとか頭によぎったあれこれを振り切り、車の中に無理やり押し込み、彼女について質問していくうちに、違った疑惑が膨れ上がってきた。
リッツ・カールトンだと?!
確かにミレニア・シンガポールに滞在する日本人は多い。
リッツカールトンならではの完璧なサポートとサービスの提供に日本人の心をくすぐられるのもよくわかる。現にレンはシンガポールでの滞在では必ずリッツだし、数週間かかる今回もミレニアスイートに滞在していた。しかしこの隣にいる女は失礼かもしれないが、どう見てもリッツ・カールトンの客には見えなかった。もちろんリッツにもカジュアルな服装の客はたくさんいる。しかし、何かが違う。
ホテルに着くと、ドアマンがドアを開けたと同時にいつもの挨拶をし、下りてきたずぶ濡れの女に驚いてはいたものの宿泊客だと気づいたのか、丁寧に声をかけていた。
彼女はそれ以上小さくなれないだろうと思われるほど肩を竦めドアマンと話し、すぐに自分にも頭を下げ逃げるようにホテルの中へ消えて行った。自分のジャケットを着たまま・・・。