シンガポール・スリング

「・・・やっとかよ」

気づくと、腕を組んで車に寄りかかりながら、嫌そうに二人の様子を見ている上村と眼があった。

「あと5分遅かったら、俺完全に未希子ちゃんのこと奪いそうになってた」

冗談っぽく言っているが、あの時の上村の眼は確かに未希子への思いが見え隠れしていた。それでも上村の言葉でレンが気づいたのは確かだった。

「本当に悪かった。感謝している」

「お前に連絡取れて良かったよ、マジで。だって未希子ちゃん、超抱き心地いいんだもん」

「・・・・・その記憶、全部削除しろ」

「無理。保存フォルダーにきちんと保存されました。それにあれぐらいしなかったら、お前気づかなかっただろうし」

「まぁ・・・貸しイチだな」

「はぁ?貸しゴーぐらいだろ?」

とりあえず、ゆっくり話して答え合わせしていけばいいさ。
上村は二人に目をやって嬉しそうに笑うと、お邪魔虫は退散するかな、と運転席に乗り込み、クラクションを軽快に2度鳴らすと、上村の車は静かに去って行った。

二人きりになると、レンは未希子の頭に頬を摺り寄せ、ぎゅっと抱きしめた。
なんとか冷静になろうとしたが、未希子が腕の中にいるのに冷静にいることなどできるはずがなかった。

「お弁当、美味しかった」

え・・・。食べたんですか。

「当たり前だろ?」

「だって、私あの場に投げ捨てちゃって・・・」

「シュンリンが落とし物だと」

その名前を言った途端、腕の中の未希子が身を強張らせた。レンは急いで謝ると記事となった写真のことから話し始めた。

「シュンリンは遠い親戚で家族ぐるみの付き合いがあるのは事実だ。でもあのインターネットでの写真はシュンリンの婚約者の所に行った帰りだったんだ」

「婚約者?」

「ああ。あの写真はシンガポールで有名なレストランの外だったんだが、シュンリンの婚約者があそこのシェフをしていて、惚気たくて無理やり連れていかれたんだ。ついでに俺の話もさせられた」

???

「今までの俺と違うって。相手は誰なんだと追及された」

レンは半分乾いた涙の後を優しく指で拭いながら、説明した。

「今日会いに来たのも、これで」

そう言うと、携帯をいじりだし、シュンリンとの会話を見せてきた。そこには近況のやり取りがあったが、彼女とはどうなったの?というシュンリンの質問の答えとして載せられた写真を見て、未希子は真っ赤になった。

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