シンガポール・スリング
「・・・一緒に浴びよう」
!?・・・・一緒・・・ですか?
普通は体を洗ってあげるものだと平然と答えるレンに、何も知らない未希子はおずおずと頷く。未希子の考えが変わる前にと急いで未希子を抱き上げ、バスルームへと運んだ。
丁寧に未希子の体を洗い上げ、フカフカのバスタオルで体を拭いた後、自分のスエットを着せベッドへと連れ戻った。シンガポールでジャケットを貸した時のことがふっと頭をよぎる。
あの時は中に服を着ていたが今は何も着ていない。
このまま傍にいたら自分の忍耐なんて5分も持たないだろう。
ゆっくり休んでと未希子にキスを落とすと、未希子はフッと魔法にかかったように目を閉じ、瞬時に夢の中へと行ってしまった。
体力的にも精神的にも相当疲れていたのだろう。
そう思うと申し訳なく感じ、もう一度キスをするとそっと寝室を出た。
途中でほったらかした仕事をリモートで片付け、テキストでシュンリンにこっちから連絡するまで連絡してこないように念を押した後、デリバリーを頼んだ。
未希子の心も体も手に入れた今、満ち足りた気持ちが体中に染み渡っていくのを感じていたが、完全に未希子を自分のものにするために、やらなくてはいけないことはまだたくさんある。そう思ってまずは祖母に電話を掛けた。
「もしもし、どうしたの?」
「今、大丈夫ですか?」
「ええ、ちょうどお友達の家から帰ってきたところよ。何かあったの?」
急な電話に、ナイナイが不安そうな声で尋ねてくる。
ナイナイを心配させるなんて、俺もまだまだだな。
「来週の日曜日の予定をお聞きしようと思って」
「来週の日曜日?夜はコンサートに行く予定だけど、お昼は空いているわよ」
「じゃあ空けておいてください。そうだな、12時に両親の家で」
「何かあるの?」
「結婚を視野に入れた愛する女性を紹介しようと思って」
?!
会ってくれますよね?
レンや・・・その人って・・・
・・・と言っても自分よりナイナイのほうが良く知っているかもしれませんが。
?!・・・・やっとね!!やっとなのね!!
はじけるような声が電話を通して聞こえた。
「なので、ちゃんと空けておいてくださいね」
それだけ言うと電話を切り、続けて父親のウェイ・リンの携帯にかけた。
彼の場合は電話に出た瞬間、やっと紹介する気になったのか?と逆に質問され、レンは思わず苦笑した。
「はい、大変遅くなって申し訳ありません」
「いつだ?」
「来週日曜日のお昼ごろでもいいですか。ナイナイがその時間、空いていると」
「わかった。昼の用意をしておこう」
「ありがとうございます」
「彼女には・・・」
??
「未希子さんにはもうプロポーズしたんだろうな」
「・・・いいえ、まだです」
「ふん、プロポーズの返事も聞かずに電話をよこすなど、順番がめちゃくちゃだな。さっさと確約を取ってこい。来週の日曜日までにだ」
それだけ言うと、ウェイ・リンは電話を切った。
了解――。
レンは携帯を見つめて静かに笑った。