シンガポール・スリング
レ、レンさんっ!!っこ、公共の場です!!
もごもごと話す未希子の頭に顎を乗せるとそのままじっとしててと言って、ドアに寄りかかった。
これからどんどん未希子に振り回されていくんだろうなと考えながらも、そんな自分が嫌ではなかった。
焼きもちなんて妬いたこともないレンだったが、未希子に関して言うと全てがその対象となり、どんな些細なことでもレンのバロメーターの針が大きく揺れてしまうことは事実だった。
もう着きますよ!!離してください!!と腕の中で暴れるかわいい彼女を見下ろしたあと、離れないようにと手を差し出した。未希子はむくれた顔のままレンの手に自分の手を滑り込ませ、不貞腐れたまま反対側のドアに向かった。
ほとんどが車での移動のレンにとって未希子と電車に乗るということもある意味新鮮だった。時々こういうのもいいかもしれない。
電車を降り、ミュージアムに向かって歩き始めると、長い行列が目に入った。
「わぁ・・・結構並んでますね」
「人気のスポットだからな」
すみません。せっかくの休みなのに・・・しょんぼりした未希子を見たレンはこうやって待つことなんて普段しないから、これはこれで新鮮と笑った。待っている間、二人は離れていた時間を埋めるように、行ってみたいところや一緒にやってみたいことなどを話したり、好きなことや嫌いなことについて聞き合ったりした。
「伊勢海老がだめ?美味しいのに」
「何度も試したんですが、だめでした。たまたま行ったところが悪かったんじゃないかっていろいろ他のレストランに連れて行ってもらったりしたんですが、それでもだめでした」
「誰に?」
「へ?」
「誰が伊勢海老の出るレストランに連れて行ったんだ?」
「えっと・・・・ど、同僚とか・・・」
「同僚とか?」
「上・・上司とか・・・」
「上司とか?」
いろいろです・・・。未希子は何が間違っているのかわからないまま、ハラハラしながら答えた。
・・・なるほどね。
??
レンは大きくため息をついてから、もう伊勢海老は誰とも食べに行かないようにくぎを刺した。