月はただひとつ
星は数多にあるけど、月はただひとつ。



深く深く水底に沈んでゆく。できるのなら、二度と浮かび上がれないくらい、最果てまで堕ちていきたい。

教室の前で、嘘の笑顔をつくる。

それはいとも簡単に、問題を解くよりも楽にできてしまう。


『だれ』でもない『だれか』になる。そもそも『だれ』になりたかったかなんて、もう忘れてしまった。記憶の果ての何処かにはあるのかもしれないけど。


意味のない笑顔を振り撒いて、今日も嘘に嘘の仮面をかぶる。笑顔、同調、すべて虚構のまがいもの。なのに、一番しっくりくるなんておかしなものだ。


嘘の笑顔なんて、吐き気がするだけなのに。


なんの特徴もない子が周りと心地よく打ち解けているのを遠目から見、教室を離れた。地味で浮いているような子が、今では月のようにみんなの中心にいて輝いている。


べつに『だれか』になりたかったわけじゃない。


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