不器用主人の心は娘のもの

彼女を見つめて

「…テイル様…お早いお着きで…」

 部屋の外にいた、娘の食事を運ぶコリーンと鉢合わせると、彼女は少々戸惑いを含みながらそう言った。


 戸を開くと、自分の買った娘はバラドに部屋の反対から見張られながら下を向いたまま隅で立ち尽くし、気付きこちらをチラリと見た。

「テイル様…本当に直々に取り調べをなさるのですか??」

 コリーンのその言葉は、彼には少々大げさでわざとらしく聞こえた。

「…私が買ってきた娘だ」

 彼は引っ掛かりを感じながらもそう答える。

 その時、娘を見張っていたバラドが娘に向かって告げた。

「屋敷の者を取り仕切る、執事長のテイル様だ」

 娘は慌てた様子のまますぐに深く頭を下げる。

「て、テイル様…私を…買って頂いて、どうもありがとうございます…」

 娘はようやくそう口を利いた。
 そしてしっかりと顔を上げた彼女に、彼は思わず黙り込み、そちらを見つめる。

 このような耳障りの悪くない声だったとは。
 しかも幼さと女性らしさを併せ持つ、彼から見ればなかなか愛らしい顔。
 髪は背中まで伸びて軽く波打ち、夜に気付くことはできなかったが、小さめな背に痩せて細い身体、程よく白い肌…

 彼は思わず近付き、娘の顎を白手袋の手で持ち上げて彼女の顔をよく見つめた。

 娘は怯えるように目を強くつぶる。

「…目を開けないか。よく見せるんだ、さあ」

 彼はいつもの毅然とした態度も忘れ、まるで小動物にでも話し掛けるように穏やかに声を掛けた。

 何とか目を開きこちらを見つめる彼女を、彼は何も言うことが出来ずに見つめ返す。

 そしてしばらく時間が流れた。


「…ではテイル様、娘の食事はこちらへ。わたくしは失礼いたします」

 ようやくコリーンがそう言うと、バラドとともに二人は部屋を出ていった。
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