不器用主人の心は娘のもの

朝の小さな温もり

 娘のいる部屋まで来るとコリーンは彼女の食事を運ぶところだった。

「テイル様…!?」

 コリーンは彼を見つけると、本当に驚いた様子でそう言った。


 部屋に入りいざ緊張した様子の娘と対面するが、一体何を話したらいいのか分からない。

 彼が黙っているとコリーンは察したように、

「…ではテイル様」

そう頭を下げ、バラドと共に部屋を出ていった。

 顔を見合わせたままの二人だったが、娘は突然深く頭を下げた。

「お、お許しくださいテイル様…。そ、その…私…御主人様の…ご機嫌を、損ねてしまいました…!」

「…。」

 娘は、自分が黙っていたことによって『主人が機嫌を損ねた』と思っていたのだ。

「どうか…どうか…!!」

 頭を下げ謝り続ける彼女に罪悪感を感じる自分。
 彼女がそんな思いをしても出ていこうとはしなかったのはなぜなのか。

「…お前は、出ていく機会を逃すのか…?」

 彼は思い付く限りの理由を考える。

「ここを追い出されれば、食事にありつけなくなるからか?…主人の与える快楽に、ありつけなくなるからか…?」

 彼は、もしかしたら娘はここにいたいと思うようになったのかもしれないとわずかな期待をし、そう問い掛けた。

 しかし彼女はすぐに否定する。

「違います…!両親の心配はありますが、私を買っていただいた恩があるからです!…でも私、御主人様の、その…夜のお役目に、慣れなくて……」

 まさか、と彼は思った。

 娘は夜の相手を、両親を助けた代わりの自分の『役目』だと思っている。
 しかもそれだけのために、『執事長』である自分に打ち明けるほどに慣れない、主人の夜の相手をしているというのか。
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