不器用主人の心は娘のもの
 戻ってきたコリーンに穏やかに促され、彼は部屋の外へ。

 …娘が自分にも慣れてくれれば、泣かれずに済むのだろうか?
 自分は娘に笑って欲しかっただけ。もし彼女が自分の膝の上に慣れてくれたら…

 それにしても娘を膝に乗せたとき、何だか自分の胸が高鳴った。きっとこれが『愛らしい』と思う、ということなのだろう。

 亡くなった両親が昔によく言っていた『愛らしい私の息子』という言葉。しかしそれは自分に、立派な跡取りになれ、というその期待だけを込めてのこと。
 何度聞かされ続けてきたか分からないその言葉のおかげで『愛らしい』は軽い言葉にしか思えなくなってしまっていた。

 しかし気に入っているあの彼女への、この胸が熱くなる感じはそれとは違うと思った。


 その日彼は、執事の姿のまま自らの仕事を自室でこなし、一息つくたびに彼女の様子を見に行った。

 コリーンに懐き、コリーンとともに屋敷の雑務や掃除に暮れる娘を見て、どうしたら彼女が笑うようになるかを考える。

 彼はすでに、彼女を屋敷から出そうと思っていたことなど忘れていた。

 娘をそばに置いておき、笑顔が見たい。

 しかし彼女は主人に怯える。
 屋敷外の人間たちと同じように…
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