不器用主人の心は娘のもの
 彼は娘が恋しかった。
 罪悪感は湧いてくるが、自分では彼女に会いたい気持ちを止めるすべが分からない。

 執事姿に変え、朝の支度を終えるとすぐにコリーンを呼び出す。


「…コリーン、娘に会わせてほしい、頼む…!」

 頭を下げる彼。

「…テイル様…!」

 コリーンは驚き、口に手を当て困惑の表情で彼を見つめる。そしてコリーンは真剣な表情で言った。

「…あの子も、テイル様のことをきっと待っておりますわ。しかしどうか『御主人様』のことをお忘れにならないで…」

 そう、いま彼は『執事長』。
 『主人』の買った娘に『執事長』が手を付けようなど、許されるはずはない。
 それは、屋敷の暗黙の了解に従っているだけであろうコリーンにも同じことが言える。

「すまない、コリーン…」

 彼はもう一度コリーンに頭を下げたのだった。

 彼は娘の入浴の終わるタイミングを見計らい、コックに頼んだ彼女の食事を自ら手にし、彼女の部屋へ向かった。


 少しすると娘がいつものワンピースを身に着け、バラドとコリーンに引き連れられて戻ってきた。

「テイル様…」

 娘は彼の顔を見るとすぐに笑顔に変わり、彼も穏やかに笑う。

 コリーンは、

「…では、テイル様」

そう言うとバラドとともに部屋を出ていった。

「娘、こちらへ…」

 彼はそっとベッドに食事を置くと手を広げ、待ちに待った彼女を迎える。

「はい、テイル様」

 たった一日会わなかっただけだというのに、自分の腕に飛び込んできた彼女に胸が熱くなる。

「…お前は素直だ…お前が欲しい…このままお前を抱き、ともに朝を迎えることが出来たなら…」

 彼の幸せに満ちた呟きに、彼女はなぜか顔を悲しげに歪めた。
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