不器用主人の心は娘のもの
 セッティングされた小さなテーブルには娘の食事が置かれ、彼と娘は向かい合わせ。

 彼女にとってはこの屋敷に来て初めての席で、さらに目の前には怯えるほど苦手な主人。
 おそらく今の心境は気が気でないことだろう。

 娘のすぐ隣の椅子にはコリーンの配慮でぬいぐるみが置かれている。
 しかしこれだけ緊張をしているにも関わらず、いつものようにぬいぐるみを抱き上げて食事をするわけにもいかないことを想うと、彼は彼女が哀れでならなかった。

 それも、『主人』が娘の食事の席にと望んだせいで…

「…気に入っているのか?隣に置いておくほど」

 下を向きながらぬいぐるみの方を何度も見やる娘に、彼はなるべく穏やかに平静を装って問いかける。

「っ…はい…テイル様に、頂いたものですから…」

 娘は緊張をしながらそう答え、こちらをうかがいながら手を組み合わせて祈り、スプーンを手に取り食事を始めた。

 近くにいるのに触れることも出来ない彼女。
 『主人』と『テイル』では、自分がどんなに望んでもやはり違う。

「お前は、テイルを愛しているのか…?」

 言ってしまってから、しまった、と彼は思った。

 娘が答えられるはずもない。
 娘を選んだのは『執事長』でも、買ったのは『主人』。
 娘の処遇を決められるのも、まして愛することができるのも主人だけなのだから。
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