不器用主人の心は娘のもの
「皆、どうか助けてくれ…!!エイミが死んでしまう…!!」

 彼が屋敷に入り皆に呼びかけると、夜中にも関わらず屋敷の者たちは次々に起き出してきた。

「誰か、コリーンを呼んできてくれ…!!メイド長、娘にやる水とベッドの準備を早急に頼む!!バラドは爺やと湯の支度を!!コックは粥の用意をしておいてくれ!!」

 皆に指示を与えながら、彼は抱き上げたエイミを部屋へ連れていった。


 エイミは早急に用意されたベッドに寝かされ、彼は彼女のそばにいたい気持ちを抑えて後ろへ下がる。

 するとすぐにコリーンがふらつきながら部屋に駆け込んできた。

「エイミ…!!」

 目を腫らし声の嗄れたコリーン。
 コリーンはエイミを見てすぐに、すがりつかんばかりにそばについた。

「…コリーン、すまないが、エイミの様子を見てほしい…」

 コリーンは、仮面も着けず執事長姿ではない穏やかな印象の『主人』を見て一瞬驚いたようだったが、すぐにエイミに目を移し、

「はい、御主人様…!」

コリーンはしっかりと頷きそう返事をした。

 全て用意を終えた状態で眠ったままのエイミと看護知識のあるコリーンだけを残し、皆で部屋を出払う。

 その際、

「…エイミ…“お姉ちゃん”が今助けてあげるから…」

そう、眠るエイミに優しく語り掛けるコリーンの声が聞こえた。


 エイミは見た限りでも疲れ切った様子だった。

 およそ三日も何も食べずにいたエイミが、あの寂れた家で満足に食事をして出てきたとは思えない。
 おまけにあの足音がエイミだったとすれば、彼女はあの家から屋敷までを走って来たということ。

 しかし自分はエイミを苦しめた元凶。
 目覚めてすぐに自分がそばにいたのでは、またエイミはパニックを起こしてしまうかもしれない…

 エイミがなぜ戻ったのか、まだ何も分からないのだから。
< 50 / 58 >

この作品をシェア

pagetop