不器用主人の心は娘のもの
「私は本当に愚かだ…こんなにお前が気になっていたのに、私のしてきたことはお前を傷付けることばかり…。両親を想う優しいお前に付け込むなど、私はなんと愚かなことを…」

 エイミが自分のそばにいてくれるのならば、どんな償いでもしたい。
 自分の初めての恋は歪んだ形で始まったものだったが、これからは本当にエイミを大切にしたいと思った。

 エイミは首を横に振り、彼のもとにそっと寄り添う。

「私が望んだことです。それでも貴方が好きですから…貴方のことを、もっと知りたいですから…」

 自分の望んだ愛するエイミの温かさに、今なら優しくなれる気がした。

「…本当に悪かった、エイミ…ここに居残ってくれるのなら、私は嬉しい…。冷たい主人は消えることが無いかもしれないが、私は精一杯、お前に尽くそう」

「ありがとうございます、テイル様…!」

 彼の懸命な償いの言葉に、エイミは嬉しそうに笑い頭を下げた。

(礼を言うのは私の方だ…。エイミにそばにいてほしいと望んでいるのは私も同じ…。本当に、私に会うために戻ってきてくれたのだな…)


 少しして、エイミは気付いたように彼に尋ねる。

「…テイル様、良ければ教えていただきたいのですが…御主人様のお名前は知っていますが、『テイル』というお名前はどこから付いたんですか…??」

 エイミの今さらな疑問に、彼はクスリと笑う。

「…自分の名を幼い頃にうまく言えず、その頃を思い出して自分なりに言いやすくした結果決めた。…呼びやすいだろう?」

 自分の名など、しばらく誰にも呼ばれた覚えが無い。
 両親に反抗し名を捨てるつもりもあったため、自分自身も時々忘れてしまうほどに。

 今となっては、そんなことを考えていたことを心から笑うことができる。

 彼女には何でも話そう。
 エイミにはもう、自分を隠すことなく居ようと決めたのだから。

 素直で純粋な、自分の愛する彼女のために…
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