不器用主人の心は娘のもの
 彼は我に返り、自室に籠もって一人頭を抱える。

 一体自分は、あの娘の何が気になったのか。
 気付けば自分は娘を買い取り、彼女は自分のものになった。
 『冷酷』と言われた屋敷の主人のものに。

 未だかつて無いこのような不安定な気持ちのままあの娘にこれから先、主人の姿でどう接したらいいのかも分からない。

 今まで言い寄ってきた娘たちのようにしてやれば、あの娘ならすぐに逃げ出そうとし面倒も無く済むだろうか?
 なぜ自分が彼女を気にしたのかはまだ分からないが。

 娘が自分に執着しなければいい。一夜の相手で気に入られては困るのだ。今までそのような相手は数え切れないほどいたのだから。

 彼はとりあえず一晩だけ様子を見ようと心に決めた。


「バラド、娘の身体にタオルを巻き、手を縛っておくようコリーンに言っておけ。そして私のいる間、あの部屋の周りには誰も来させるな」

 主人姿のままバラドにそう命じると自室に戻り、用務を手早く済ませてバスルームで湯を浴びる。

 一人で夢中で用務をこなすうちは何もかも忘れていられる。自分が屋敷の主人であることも、娘を買ったことも。

 しかし時はやってくる。
 しかもすでに彼の運命の時は、彼女を買ったときに変わっていたのかもしれない。
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