不器用主人の心は娘のもの
 あの怯え方を見ていると、娘がこのままではいつか自ら命を断ってしまうような気がした。

 理由はまだ分からないが自分の初めて気になった相手である娘。
 彼女をこのまま放って悲劇が起きるかもしれないなど、考えたくもない。

 やはり娘をしばらく屋敷に置こう。そして落ち着いた頃に屋敷を出す。
 そうすれば彼女が自害することも防げ、自分のまだ分からないこの気持ちにもきっと決着を付けられる。

 彼は眠る彼女を見つめ、再び触れようとしてすぐに止める。
 今はまだ怯えさせてしまうに決まっているのだから。

 彼は娘の身支度を整えてやってから、静かに部屋を出て再び鍵を掛けた。


 深夜に戻った自室の前にはバラドが腕を組み立っていた。

 彼は部屋にバラドを呼び、深く頭を下げる。
 彼が頭を下げる人間は、亡くなった両親の他はこのバラドだけだった。

「バラド、頼む…!君にはしばらく娘を見張ってほしい。娘の入浴時と、夕刻に私が彼女のいる部屋へ入る前だけでいい…!彼女に死なれる訳にはいかないんだ…死なれては…困る…」

「…。」

 必死な主人にバラドは何も言わず目を閉じる。
 バラドがこうするときは、自身が何か思うところがある時らしい。

 そして少しの間が空いたあとこう言った。

「様子を見るため、しばらく娘を見張るのだな。分かった」

『様子を見る』、バラドのその言葉は、主人である彼自身のことも含めて言われた気が、彼はした。

「コリーンには昼間の見守りと世話を継続させる。…君には面倒な役目を…本当にすまない…」

 彼がバラドに頭を下げると、バラドはじっとこちらを見据えた。

「…くれぐれも、深追いすることの無いよう。御主人」

 バラドはそう言い、頭を下げ出ていった。


 深追いとはどういう意味だろう?

 初めて感じた娘への欲。そして何より彼女を買い、そばに置こうとした自分の気持ち。
 それは深追いをしなければ分からないことなのだろうか?

 彼は疲れ果て、着替えも出来ずに自身のベッドに倒れ込んだ。
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