婚約解消しないと出られない部屋


 私には分かっているのだ。


 先程の映像。ジルフリート様は一度も私の名前を呼ばなかった。


 つまり、ジルフリート様は他の女性について語っているところを撮影され、こんな辱めにあってしまったのだろう。本当に気の毒なことだ。

「映像は、合成で……セドリック様の台詞だけ、変えていて……」
「なんだその妙なトリックは!」
「全て、マルっとお見通しですわ……」

 えぐえぐ泣きながら私は続けたけれども、そろそろ喋れなくなりそうだ。

「ごめんなさい」

 もう謝ることしか思いつかない。

「好きになって、ごめんなさい」

 こんな私が、あなたの婚約者になってごめんなさい。

「こんな重たい女で、気持ち悪くてごめんなさい。全部忘れてください……」

 しゃらん、と音を立てて、鎖が蒸発するように消えた。
 私が素直に自分の気持ちを伝えたからだろう。
 けれども、私は蹲ったまま動けなかった。
 涙が止まらなくて、とうとうしゃくり上げてしまう。貴族令嬢にあるまじき痴態である。

(こんな私が、ジルフリート様の女神な訳がない……)


 早く泣き止んで、ジルフリート様の手錠を外してあげないといけないのに……。



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