婚約解消しないと出られない部屋
「あれは、その、理由があって」
「やはり気持ち悪くなったんだろう?」
「違いますわ!!」
私はしっかとジルフリート様の右手を両手で握りしめて、彼の間近で宣言する。
「私がジルフリート様のことを嫌いになるなんて、異世界に転生してもあり得ませんわ!」
「ん? 転生するのか?」
「しません! ……さっき変態と漏らしてしまったのは、ジルフリート様が私なんかを好きでいてくださると仰ったからです。私なんて、ジルフリート様に比べたら、地味でどこにでもいそうなつまらない女なのに……」
「オレリアは女神だ! どこが地味なんだ、ふわふわのハニーブロンドも、潤んだ新緑の瞳も、抜けるような肌も最高に美しくて可憐だ!!」
「あ、う……ジルフリート様…………」
握りしめていた手を逆に包み込むように握りしめられて、私は恥ずかしくて目を彷徨わせてしまう。
もはや私が知っている私と、ジルフリート様が見ている私は別人としか思えませんわ!?
動揺している私を見て、ジルフリート様も私に詰め寄っている事実に気がついたらしい。
一瞬慌てた素振りだったけれども、しかし、彼は私の手を離さなかった。
「……オレリアは、俺とキスするのは、嫌か?」
「…………」
「オレリアの嫌なことはしたくない」
震えた声で言われたその問いに、私はなけなしの勇気を振り絞って、ポツリと呟く。
「ジルフリート様になら、何をされてもいいです……」
ごくりと唾を飲み込む音がして、しばらくお互いに沈黙していた。
その後、ゆっくりとジルフリート様が動く気配がする。
私は覚悟を決めて、目を閉じた。
そのまま待っていると――。
ふわりと唇に温かい感触がした。
「……ジル、フリート様……?」
「オレリア、愛してる」
カチャリと扉の鍵が開く音がするとともに、ジルフリート様にしっかりと抱きしめられた。
あまりに近い距離に、私は羞恥で震えながら、でもまさかこうなるとは思わなくて、ついそれを口にしてしまう。
「ジルフリート様、あの、あの……」
「オレリア、好きだ。俺の女神。君は天使だ。愛している。神の化身、天上の……」
「ま、待ってください。ジルフリート様、あの、どうして……」
「? 何か気になることがあったのか? もしかして嫌だったとか……」
「ち、違います! あの、だって、ほら」
もじもじしている私を、蕩けるような目でジルフリート様は見つめている。
「キスが必要なら、頰でよかったのでは?」