好きだけど逃げ出したから……
「でも、瑠美が帰って来てくれるなら、俺、ちゃんと家事をするよ。飯は瑠美の手料理が食べたいから、晩ご飯だけ作って。そしたら、朝ごはんは晩ごはんの残り物を勝手に食べるから、瑠美は寝てて。掃除も土日に俺がする。洗濯物は土日に俺がコインランドリーでまとめて洗って乾燥までしてくる。俺、そんなに給料いいわけじゃないけど、週に一回のコインランドリー代くらいは出せるよ。だから、また二人で暮らそう?」

倫也は一気にまくし立てる。

そこへ呼び鈴が鳴り、お盆にお茶菓子を乗せて女将さんが戻ってきた。

「お話はお済みになりました?」

お茶を淹れながら、さりげなく尋ねる。

私たちは、答えられなくて、無言で注がれるお茶を眺めるともなく眺めていた。

「瑠美ちゃんはね、私が娘とも思ってる大切な子なんですよ。ほんとに頑張り屋さんないい子でね。だから、この子に甘えさせてやってくださいね」

女将さん……

私がここに来た時も何も聞かなかったし、何も言ってないのに、まるで全て分かってるみたい。

「最近はあまり言わなくなりましたが、一家の主人(あるじ)はね、大黒柱って言うんですよ。何があっても揺らがないで、家族を支えてやってくださいね」

そう言って、湯呑みを茶托に乗せて倫也に差し出す。

「だからね、瑠美ちゃん」

そう呼びかけた女将さんは、顔を上げて真っ直ぐ私を見る。

「あなたは大黒柱の役をとっちゃダメ。頑張らないで、寄りかかって支えてもらってなさい」

えっ?

私、大黒柱になろうとしてた!?

私は、女将さんに言われて、ハッとした。

そうかもしれない。

男性に負けないようにずっと頑張ってきて、それを家の中でも自然とやってたのかも。

「長々と無駄なおしゃべりを致しました。瑠美ちゃん、今日はお客さまが多いから、あと30分くらいで厨房に戻ってね」

そう言うと、女将さんは、お盆を持って部屋を出て行った。

残された私たちは、お互いの顔を見合わせる。

「瑠美、俺、瑠美を支える。だから、俺と帰ろう?」

倫也のその顔を見た時、私は素直に「うん」とうなずくことが出来た。

うん、そうしよう。

大黒柱は倫也。

私は倫也に支えられて生きていく。


女将さん、ありがとう。


倫也、ありがとう。


私たち、今度こそ幸せになろうね。




─── Fin. ───


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