勿忘草
テレビから流れる天気予報。晴れの時は落ち込み、雨の時はお気に入りの青い傘を持って、お出かけしようと二人雨の街に繰り出して。


カフェで紅茶だけふたつ頼み、何気ない日常の物語を交わす。明日の夕食はことこと煮込んだ星の人参と鶏肉の蜂蜜クリームシチューにしようとか、新しく迎えた観葉植物の名前を何にしようとか。


淡く優しい時間はすぐ解けていく。


「今度ブルーを連れてピクニックへいこう」


それが最後に交わした約束。


破られたことのない約束だったから、鮮明に今も描くあの日の情景。


雨ばかり最近よく降る。

雨はいつ止むのだろう。


彼は特別な日にいつも私に勿忘草を渡す。決まってその日は、いつも雨。


無言のまま渡された勿忘草。もうすっかり枯れてしまった花を、今も私は捨てられないでいる。

彼がよく聞かせてくれた花言葉も、今では記憶の遥か彼方。忘れられない幸せの幻の中で、今日も抜け出せない。


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