初恋を手放す
人の恋愛に口出しするつもりは毛頭ない。
でも、私は恋していたのだ。この全くこちらを見てくれない人を。
どんなに我儘を言われても穏やかに笑う姿に惹かれていた。
愛しい人の我儘に真摯に応える姿が、とても好きだった。

彼のその愚直なまでの誠実さに、どうしようもなく焦がれていた。


私には分からない。
どのくらい思い悩んだ選択なのか、はたまた、疲れた心を癒してくれた、今まで知らなかった優しさをくれた女性に心揺らいだのか。
ずっと彼を見守ってきたつもりで、全く知らない。

彼の心のうちを知れる距離などにはいなかったのだ。
ただただ、目の前の男性の持つ一面を見て、勝手に期待し恋していただけなのだと知る。

独りよがりなこの気持ちは、受け止めてもらう価値もない。
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