春になっても溶けないで
その顔を見ると、心がほかほかした。まだ冬なのに、心の中は春みたいに温かい。

もっと、一緒にいたい。
笑顔を、もっと見たい。

誰かに対してそんな風に思ったのは、悠が初めてだった。

***

「そうなのねぇ。分かったわ。今日は保健室にいなさい。」

保健室に行くと、保健の先生が椅子に座っていた。
保健室は暖房がとても効いていていて暖かく、過ごしやすそうだ。
奥の方にはベッドが二つ置いてある。

悠は、上手く話せない私の代わりに事情を説明してくれた。
イジメのことを話したのかどうかは分からないけれど、保健の先生は保健室にいることを許してくれた。


奥のベッドに腰掛けて、カバンを開く。
どうしたらいいのだろう。保健室に逃げてきたのはいいものの、イマイチ何をしたらいいのか分からない。

すると、悠が私の隣に腰掛けてきた。

驚いて悠の方をじっと見てしまう。

悠は保健の先生をじっと見つめているようだ。
いや。見つめる、というより、観察という言葉が似合うような視線だった。


私も気になって、保健の先生の方を見る。

特に何も無さそうだけど…


「ふっ。」

それを見つけて、おもわず笑ってしまった。

靴下の色が違う。左右違う色で、おそらく間違えたのだろう。
赤と青。まるで信号機みたいだ。

悠と目があう。悠も目が笑っていて、何とか堪えようとしている様子だった。
2人で、しばらくクスクスと笑いあった。

悠に目配せをして、私は口を開く。

「先生、靴下間違えてますよ。」


「え?!やだ!ほんとだわぁ!」


先生の反応が面白くて、さらに笑ってしまう。
先生も笑っていて、とても楽しかった。


こんな風に誰かと笑いあうのは、とても久しぶりだ。


あの時、飛び降りなくてよかった。そう、心の底から思った。
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