春になっても溶けないで
制服に着替えて、私はリビングに向かった。
綾はもう学校に行ったようで、リビングにはお父さんとお母さんがいた。
普通のお父さんなら、もう仕事に行っている時間だろう。
けれど私のお父さんの朝は遅いのだ。その分、帰ってくるのも遅いのだけれど。

「もう、凛!遅刻しちゃうでしょう?早く支度しなさい!」

お母さんがうんざりしたような表情でそう言った。

「は、はい!」

私は何故か怒られたような気分になって、急いで洗面所へいく。
顔を洗うと、少しスッキリした。

悠の突然の告白から、私の頬は熱いままだったのだ。
歯を磨いて、寝癖を直す。
時計を見ると、もうかなり遅かった。朝ごはんを食べていたら、遅刻してしまうかもしれない。

仕方ない。今日は朝ごはんを抜きにしよう。


そう思って、私はカバンを持ち玄関へ急いだ。

「あ、ちょっと凛!朝ごはんは?!」

ドアを開ける直前に、お母さんの声が聞こえた。でも、無視することに決めて私は勢いよくドアを開ける。


「行ってきます。」


そして私は急いで学校に行き、遅刻を回避する…はずだったのに。


「あ、凛!一緒に学校行こう。」

悠が、そう言って手を繋いできたのだ。
男の子と手を繋いだことなんて、幼稚園以来ろくにない私は、酷く照れてしまった。

でも、なんていうか、安心感がある。
この手を繋いでいれば、何処へだって行けるような、安心感。

隣を見上げると、悠の優しい目と目が合った。

また私は照れてしまって、顔が熱い。
幸せな気分になっていた、その時だった。

「え、桃瀬じゃん。」

背筋の凍る思いがした。

「な、中本…さん。」

後ろに立っていたのは、イジメの主犯格。中本さんだったのだ。
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