春になっても溶けないで
「中…本…さん…。」
私の声は、きっと震えていたと思う。
さっきまで熱かった顔が、今はとても冷たい。
唇が震えて、何も言えない。

中本さん。なんでここにいるの。いつもは、もっと早く登校しているのに。

「いやぁ…寝坊しちゃってさぁ。桃瀬も寝坊?同じだねぇ。」

中本さんは、そう、のほほんと笑う。
やめて。いつもはそんなに優しくないでしょう。

きっと、悠が見ているからだ。いつもみたいに、できない。
それに、悠は中本さんが好きそうな顔立ちをしている。きっと、惚れさせたいんだろう。

「ねぇ桃瀬。私、話したいことがあるんだけど…2人で、いいかな?」

中本さんが、私の手を繋いできた。話って、何?
怖い。何をされるんだろう。もしかして、殺されるんじゃないだろうか。

手をぐいっと引っ張られて、私は悠と離された。

そのまま、ぐんぐんと前へ進んでいく。

どこへ行くんだろう。
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