俺の『女たち』は誰にもやらん!

これは俺の女たちだ


 高校生時代、おバカな僕には、不釣り合いってレベルの友達、天才(てんさい)くんがいた。

 彼はいつも試験で満点を取るような秀才だ。
 そんな天才くんと仲良くなれたきっかけは……。

「よう、味噌村! お前、“この前”のどうだった?」
「ああ……ちょっと、僕にはわからなかったよ」

 苦笑いで、彼から借りていた茶封筒を手渡す。
 中身は、「うっふ~ん」なDVDだ。

 彼は勉学においても知識豊富だが、そっちの映画も負けないぐらいの知識人である。

「そっかぁ~ 味噌村はまだまだ青いなぁ……もっと、俺みたいに色々見て、レベルあげろよな」
「あ、いや……僕はあんまり、そういうの好きじゃないんだよ」

 僕は一応、ロマンチストでして、恋愛なき行為、もしくは合意なき行為は、すごく嫌がります。
 見ていて「うわぁ、痛そう」「酷いことするなぁ」なんて、顔を歪めていました。

 2000年代初頭、僕が知らないだけかもしれませんが、成人映画を観ても、女性がいじめられているようにしか、感じない作品が多く感じました。

 天才くんが貸してくれる作品も、かなりハードなものが多く、僕には苦行でした。

 ある日、僕は彼に尋ねました。

「ねぇ、天才くんってさ。なんでそんなにDVDをたくさん持ってんの?」
「は? 普通、買うだろ」
「え、レンタルでよくない?」
「バッカだなぁ! 味噌村は……それじゃ、何回も楽しめないだろ!」

 天才くんに説教され、「今度うちに来い」と誘われた。

 彼の家に遊びに行くと、そこには天井まである大きな本棚が目に入る。

 辞書、うっふんなマンガ、広辞苑、あっはんなDVD、参考書、あっはん、あっはん、あっはん……教科書。
 というランダムな並べ方をしていた。

「な、なんじゃこりゃ!」
 驚く僕を見て、鼻を高くする天才くん。
「フッ、どうだ。味噌村、俺のコレクションは?」
「す、すごいね……」
「だろ?」
 見ていて、本当に衝撃を受けた。
 だって、自室とはいえ、堂々と飾ってあるからだ。
 本来、家族にバレまいと、世の青年たちは、部屋のどこに隠そうかと迷うはずなのに……。

「そうだ、味噌村。ちょっと手伝ってくれないか?」
 天才くんは、黒い大きなビニールのゴミ袋を取り出す。
「いいけど、なにか捨てるの?」
「ああ、こいつら、もう飽きたからな……」
 そう言って、床に散乱していたパッケージをかき集める。
 見た感じ、まだ販売して一年も経っていないような美品に見えた。

「す、捨てるの!? 売ればいいじゃん!」
 僕がそう助言すると、彼は烈火の如く怒る。
「はぁ!? なんで俺の買った作品を、他の奴らに売らなきゃいけないんだよ!」
「へ……?」
「俺が高い金払って、買った女たちだぞ? ダチでもない奴らに使われるのは、大嫌いなんだよ!」
(ファッ!?)

 僕は彼の言っている意味が理解できなかった。

「つ、つまり、天才くんが使ったものを売ったら、知らない誰かに使用されるのが嫌ってこと?」
「そうだよ! 俺が買った……いや、たくさん抱いた女たちを、他の野郎どもにくれてやるわけにはいかねーんだよ。この女優たちは、俺と関係を持ったってことだ!」
「えぇ……」
「さ、味噌村。一緒に捨ててくれ」
「わかったよ……でもさ、5000円以上もする作品を買って捨てるって、コスパ悪くない? それなら、レンタルの方が……」
 言いかけて、怒鳴られる。
「バカ野郎! さっきも言っただろ! レンタルショップでよ、他の奴らが触った女たちを抱けるか!」
「そ、そういうことなの?」
「ああ、そうだよ。味噌村もたくさん見て、しっかりこっちのレベルもあげろよな」

 彼の言い分は、よくわかった。
 だが、その定義で言うならば、天才くんが購入したDVD、作品は、全国で何万、何十万人の男性たちが見たり、買ったり、レンタルしていることになる。
 同じ女優さんでだ。
 行為をしているのは、あくまでも、相手の俳優さんじゃないか?
 と僕は首をかしげながら、数多の名女優さんを捨てるのであった。

 デジタル化が進んだ今、彼は今でもパッケージ版を購入しているのだろうか。
 僕は断然、ダウンロード版です。

   了
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