境界線を越えたくて
坂口くんへの想い
 いつでも言えると思っていた。
 いつでも伝えられると、そう思っていた。

 ねえ坂口くん。私はあなたのことがずっと好きだったんだよ。

 中学一年生でする初恋はすぐに言の葉へ乗せられず、胸元のシャツの中、秘かに持っていた。
 いつか取り出せばいいと、いつかチャンスがきたら打ち明けようと心に決めて、大事に大事に抱えていた。

 けれど。

「ねえねえ知ってる乙葉(おとは)っ。早苗(さなえ)坂口(さかぐち)瑞樹(みずき)に告白したんだってっ。絶対オーケーだよねあんな美人っ。超お似合いだよねーっ」

 けれどそれは、学年イチの美男美女カップル誕生の噂と共にころんとそこから出ていって、パリンと割れた。

「そ、そうなんだっ。お似合いだねっ」

 浮かれさわぐ彼女たちと似た顔を咄嗟に貼り付けそれを拾うが、粉々に砕けてしまった想いはもう綺麗なものではなくて、誰にも見せられない無惨な姿。
 ぽたんと落ちた、一粒の涙。初めての恋心は未だ消えないのに、失恋という現実は(しか)と受け止めなければならない。だったら壊れるその前に差し出せばよかったと後悔した。

 それからの私は、彼を避けることだけに精を出した。
 視線がかち合えば外方(そっぽ)を向いて、すれ違いざまには俯いて、階段で会えば方向を変えて逃げ去ったりもした。
 それなのに、上手くは消滅してくれない彼への想い。今日もほとほと困り果ててしまう。
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