境界線を越えたくて
 校庭へと視線を逃す。どちらも何も言わなくなればまた聞こえてくる、青い春。

「あっれ、瑞樹ここにもいねえの?」

 私の後ろ。二組の教室からした男子の声は坂口くんの耳にも届いたらしく、ふたりでぱちんと目を合わせた。

「瑞樹の居場所知ってる人〜」

 どんどん大きくなるその声は、真っ直ぐこちらへと向かってくる証拠。
 邪魔されたくない。その気持ちが行動に出た。

 伸ばした手が彼の腕を掴むとほぼ同時、私の体は線の向こうへとダイブした。

「え、水沢さ──」

 困惑する彼の声が降ってきて、かと思えば一緒に雪崩(なだ)れてドサンと落ちて。彼は尻もちをついていた。

「あれ、ベランダにもいねえじゃん」

 突起した柱。それが私たちを隠してくれた。坂口くんの胸元のシャツにしがみつき良かったと息を吐くけれど、次に襲ってきたのは大きな羞恥心。

「ご、ごめんなさいっ!」

 ガバッと顔を上げて彼を突っぱねようとした。突然押し倒した上にこんなことをしてしまえば、想いを告げるどころか嫌われてしまうのに。
 だけど彼は、そんな目茶苦茶な私を抱きしめた。

「シーッ、静かにっ。健二(けんじ)のやつまだそこにいるから」

 背中にまわされたものが手だと理解するよりも前に、彼のシャツへぴたりとついた左頬。初めて香った彼の匂いに包まれて、パニックに陥っていく。
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