境界線を越えたくて
「水沢さんが勧めてくれたドラマ観たよ。けっこう面白かった」
「本当?よかったあっ。でももう来週が最終回なんだ」
「え、そうなの。まだまだあのふたり、くっつく感じしないけど」
「ね。このまま離れ離れのまま終わっちゃったら嫌だなあ」

 暖かな日が続き、蕾がちらほらと開き出した頃。坂口くんとはこんなにも自然に喋れるようになっていた。

「そういえば私も観たよ。坂口くんが言ってたバラエティ番組」
「どうだった?」
「もう家族みんなで大爆笑」
「ならよかった」

 あの日勢いで飛び越えた境界線は次の日からもあたり前に存在していて、あれ以来それを跨ぐことはない。

 越えたい、越えられない。

 今日も彼は、近くて遠い。


「卒業式までに、間に合わなそうだよね」

 卒業式まであと三日。桜の木はまだまだ茶色が目立つ三分咲き。

「満開は卒業してからかなあ」

 そう嘆くように呟いた時、その木の下のとある光景が目に入る。
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