境界線を越えたくて
 視線がかち合えば外方(そっぽ)を向かれて、すれ違いざまには俯かれて、階段で会えば方向を変えて逃げ去られたりもした。

 水沢さんの態度が急変した。

 彼女に避けられる原因は俺が作ってしまったのだろうかと思い悩んだ。けれどクラスも違えばつるむ連中も違うふたりの関係。思い当たる節などどこにもなくて、ただ途方に暮れるしかなかった。

「試しに付き合ってみてあげてよ。それから好きになることだってあるし」

 長い期間早苗へ返事をしないでいると、彼女の友人に背中を押された。

「早苗、いい子だよ?」

 投げやりになっていたわけではない。けれど好きでもない早苗と付き合ってみようかと俺が思ったのは、嫌いではなかったから。

 試しに付き合い、惚れることもある。

 俺はそれに(すが)ったんだ。
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