境界線を越えたくて
 中学卒業まであと一ヶ月。給食を食べ終えた昼休みの私の定位置は、教室のベランダ。

「風強すぎ……」

 春一番が吹くでしょう。今朝のウェザーニュース通り、乱暴な風が吹いていた。

 旗のようにはためく長髪を、何度も耳へかけ直す。けれどすぐに暴れてまた風とやんちゃに遊び出すから、(うと)ましく思った。

「どうせだし、こんな髪切っちゃおうかなあ……」

 人差し指にくるんと絡め、そう呟く。失恋してからもう二年。彼への想いは、まだ胸の中。

「あ」

 ぼうっと眺めていた青空。吹き飛ばされた誰かの洗濯物が、鳥のように舞っていた。綺麗な綺麗な白いシャツ。地に着けばきっと汚れてしまうから、このまま青の彼方まで風がさらってしまえばいい。
 そんなことを考えながら、また耳へと髪を運んでいる時だった。

「あ」

 自分のものではない声が聞こえて、息を飲んだ。

「シャツ飛んじゃってるじゃん」

 何故ならその声の持ち主は、私の愛しき人だったから。
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