境界線を越えたくて
「ごめん、早苗」

 だけどそれは全然上手くいかなくて、結果的に早苗を傷付ける羽目になってしまった。

「いいよいいよ。一ヶ月だけど恋人やってくれてありがとう。楽しかった」

 その時の笑顔は無理して作られたものだろうけれど、それからも俺と友達として気さくに接してくれる早苗には感謝が募った。


 俺を嫌いになったであろう水沢さんへの恋心は言の葉へ乗せられず、胸元のシャツの中、秘かに持っていた。
 いつかチャンスがきたら打ち明けようと心に決めていたが、そんな機会も巡ってこずに避けられ続ける日々。

 水沢さんに避けられている?

 そんな疑問を持ったのは、中学三年生になってから。願い虚しく一度も彼女と同じにならなかったクラス替えの日。
 クラスメイトでも友人でもない俺等の間柄で、よくもまあそんな言い表し方ができたものだと己を呆れ笑った。

 彼女と俺は何も始まらなかった。始まりもないのだから終わりもない。

 廊下で時折見かける彼女の姿。あの頃のようにもう目は合わないけれど、それでもいいじゃないかと自分へ言い聞かせた。

 これでじゅうぶん、これで幸せ。

 だから心の中だけで、こう言うよ。

 俺は君のことが大好きです。
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